椿の花
あと一日で世界が終わろうともその蕾は花開くでしょう
百日も長く咲けるよりも美しく孤獨に枯れる
耳の奧で椿の花がぼとりもげる音がする
心の臓を踏み潰されてぐちゃりと土に還りなさい
咽の奧で椿の花がどろり融ける味がする
足の腱を噛み千切られてじろりと星を睨みなさい
眠れ眠れ最期の夢安らかであれ
踴れ踴れ焼けた靴を履くシンデレラ
あなたが路を尋ねてきたのなら
千里示す道しるべになろう
あなたが空を見たいと願うなら
火星より紅い惑星になろう
あなたが聲を求めているのなら
岩に沁みる斷末魔になろう
あなたが海を聞きたいと言うなら
ためらいなくこの禦髪引き裂こう
腹の奧で椿の花ががさり動く音がする
水の底に閉じ込められてごぽりと溺れ腐りなさい
森の奧で椿の花がぼきり折れる絵が見える
骨という骨全て砕かれぬちゃりと蟲に喰われなさい
暗く暗く黒の色さえ見えぬ闇と
赤く赤く狼の腹の中で散れ
あなたが側に居たいと願うなら
へその緒刻んで首輪にしよう
あなたが共に歩みたいと言うなら
この皮剝いで靴底にしよう
あなたが愛の口付けせがむなら
水子を唇に塗りたくろう
他の誰かに奪われるくらいなら
自ら薬指砕きましょう
あと一日で命が終わるなら椿の花は悩むでしょうか
百日も長く生きるよりも美しく孤獨に枯れる