雲を砕きて月を越え君を迎えにいざ行かん
碎雲跨月迎君去
狸囃子甲高く隼風の背に乗り駆け行く
乘風伴狸高吭聲
輪入道の炎の轍
輪迴路上炎之轍
轟く鼓動が地を揺らす
轟轟隆隆動地來
鬼火狐火、道を照らし君を攫いにいざ行かん
鬼狐之火照吾前路掠君去
立ち込めたるは煙々羅
霧罩之中是煙羅
焦がれた狐が空を行く
狐急走天空
嫁入り行列下に下に
新嫁娘一行在路上
狐の嫁取り下に下に
迎親狐一行在路上
人の子、本に美味なりて
人類之子美味至極
今宵は皆で心行くまで
今宵盡情狂歡
飲めや食えや舞えや飛べやの無禮講
盡情吃喝歡舞吧
これぞあやかし百鬼夜行
此乃真正的百鬼夜行
あれに見えるは月夜の黒雲
只可見月夜黑雲壓頂
群れを成したる下卑なる物ども
成群結隊卑劣的妖怪們喲
討てや討てや火に矢に鉄砲
用火用箭用鐵炮射擊
臆するなかれ所詮はまやかし
切勿膽怯終是幻影
あれに見えるは我が姫の居屋
只可見公主居所
群れを成したる非力な者ども
成群結隊不自量力的妖怪們喲
筒も火薬も暖簾に腕押し
備上炮筒火藥和盾牌
臆するなかれあっ晴れ我らはあやかし
切勿膽怯妖怪們喲
人は負けれど真に強きは天の禦心
人勝不過天
禦力をば言の葉にのせ
借力借言
悪鬼退散かしこみかしこみ申し上げる
惡鬼退散畏懼而逃
諸々禍事罪穢れ祓い清め賜う
消弭諸多禍事罪穢
天津神地津神八百萬の神達共に
天津神地津神八百萬神明同在
幾多の友が倒れようとも(如何なる悪しき闇と言えども)
即使眾多友人倒下(無論何等邪惡的黑暗)
我が足だけは止められぬ(萬の神は止められぬ)
止不住吾之步伐(萬神亦莫阻)
か弱き者を三つ四つなぎ倒し(されどおぬしがまだ駆けると言うのなら)
羸弱小妖接連倒去(而汝尚能行)
いざ我が姫のもとへ(さあ剝げ化けの皮)
去吧,去公主所在之處吧(剝下畫皮)
黒き眼に映る狐面
黑瞳之中的狐面
その手を伸ばして
伸出手
白き肌に這わす獣の爪
向玉肌伸出野獸的爪
乙女の腕が剎那なぎ払えり
少女手腕剎那間扼住
面落ちてからころり
假面忽落
人の子紛れた妖怪町
竟是人類混雜在妖怪之域
時満ちて
瞬時遍地
狐の面が隠すのは
狐面下藏著的
人の子なりや人の子なりや
竟是人之子人之子
哀れな噓吹き狐憑き
狐狸附身滿是可悲謊言
顔隠し逃げる先にあやかしどもや
換臉躲藏之地是妖怪們呀
狐の面で何をば隠さん
狐面藏著什麼
人の子なりや人の子なりや
竟是人之子人之子
狐に憑かれた人の子なりや
狐狸附身人子
あな口惜しや忌ま忌ましければ
可惜若是禁忌
されど人の子、本に美味なりて
但人子真美味至極
今宵は皆で心行くまで
今宵盡情狂歡
飲めや食えや食えや食えやの
邊飲邊食又復食
亂痴気騒ぎ空騒ぎ無禮講
人聲鼎沸無需拘禮
これぞあやかし百鬼夜行
此乃真正的百鬼夜行
われは狐ぞあやかしぞ
吾眾乃狐吾眾是妖
狐の肉はどうだうまいか
狐肉如何,是否美味
最期にみゆるは面をはずせしのっぺらぼう
臨終所見無眼鼻嘴之怪
我が顔に今、その手伸ばして———嗚呼
伸手撫吾顏———嗚呼