春琴抄
佐助
佐助
痛くはなかったか
不痛嗎
と春琴が雲った
春琴問
いいえ痛いことはござりませなんだ
不,不痛
お師匠様の大難に比べましたら
與師傅您所遭受的災難相比
これしきのことが何でござりましょう
這算得了什麼呢
あの晩曲者(くせもの)が忍(しの)び入り
那天晚上,奸人潛入
辛き目をおさせ申したのを知らずに睡(ねむ)っておりましたのは
本來應該做為看守的我...卻睡著了
返す返すも私の不調法
總之這是我的疏忽
毎夜お次の間に寢させて戴(いただ)くのは
每晚讓我睡在隔壁
こう雲う時の用心でござりますのに
本就是為了防備如此
このような大事を惹(ひ)き起し
然而卻發生了這麼大的事
お師匠様を苦しめて自分が無事でおりましては
讓師傅受難,而我...卻安然無恙
何としても心が済まず
無論如何,我都無法安心
罰(ばち)が當ってくれたらよいと存じまして
作為懲罰
なにとぞわたくしにも災難(さいなん)をお授け下さりませ
什麼都好,讓我也遭受災難吧
こうしていては申訳(もうしわけ)の道が立ちませぬと
不然的話,我實在無法贖罪
禦霊様に祈願(きがん)をかけ
我向神靈祈願
朝夕拝(おが)んでおりました効が
日夜跪拜叩首,希望奏效
あって有難や望みが葉(かな)い
幸而終於有望實現
今朝(けさ)起きましたらこの通り両眼が潰(つぶ)れておりました
就這樣,今晨起來雙目便看不見了
定めし神様も私の志を憐(あわ)れみ
一定是神靈憐憫我
願いを聞き屆けて下すったのでござりましょう
讓我如願以償
お師匠様
師傅
お師匠様
師傅
私にはお師匠様のお変りなされたお姿は見えませぬ
我看不見師傅被毀的面容
今も見えておりますのは三十年來
現在所能見到的依然是三十年來
眼の底に沁(し)みついたあのなつかしいお顔ばかりでござります
一直映在眼底的親切容貌
なにとぞ
那麼
今まで通りお心置きのうお側(そば)に使って下さりませ
就如往常一樣,讓我服侍在您身邊
俄盲目(にわかめくら)の悲しさには立ち居も儘(まま)ならず
由於突然失明
ご用を勤めますのにもたどたどしゅうござりましょうが
也許動作舉止不能隨心自如
せめて禦身の週りのお世話だけは
但是您身邊的日常瑣事
人手を借りとうござりませぬと、
請務必不要讓別人來做
春琴の顔のありかと思われる
一定是春琴的臉上映出的微光
仄白(ほのじろ)い円光の射して來る方へ盲(し)いた眼を向けると
讓佐助揚起失明的雙眼迎了上去
よくも決心してくれました
難得你下了這麼大的決心...
嬉しゅう思うぞえ、
我很感動
私は誰の恨(うら)みを受けて
我不知道自己到底得罪了誰
このような目に遭(お)うたのか知れぬが
慘遭如此不幸
ほんとうの心を打ち明けるなら
但是,說心裡話
今の姿を外(ほか)の人には見られても
如今,我這個樣子,讓別人看見倒是沒什麼
お前にだけは見られとうない
就是不想讓你看
それをようこそ察してくれました。
我的一番心思,你竟然都察覺了
あ、あり難(がと)うござります
啊、多謝
そのお言葉を伺(うかが)いました嬉しさは
聽到師傅的這番話,我非常高興
両眼を失うたぐらいには換(か)えられませぬ
這是用雙目失明也換不來的
お師匠様や私を悲嘆に暮(く)れさせ
那個想使師傅和我都陷入悲傷、
不仕合わせな目に遭(あ)わせようとした奴(やつ)は
遭遇不幸的傢伙
どこの何者か存じませぬが
儘管不知道他身在何處是何人
お師匠様のお顔を変えて
如果改變師傅的容顏
私を困らしてやると雲うなら
是為了讓我遭受痛苦
私はそれを見ないばかりでござります
那我就不再看師傅的臉
私さえ目しいになりましたら
只要我成為盲人
お師匠様のご災難は無かったのも同然、
就等同於師傅並沒有遭受這樣的災難
せっかくの悪企(わるだく)みも水の泡(あわ)になり
他的惡毒陰謀也就化為泡影
定めし其奴(そやつ)は
想必,那個傢伙
案に相違していることでござりましょう
一定想不到吧
ほんに私(わたくし)は不仕合わせどころか
我不僅沒有感到不幸
この上もなく仕合わせでござります
反而覺得無比幸福
卑怯(ひきょう)な奴の裏(うら)を掻(か)き
一想到我對那個卑鄙的傢伙將計就計
鼻をあかしてやったかと思えば
攻其不意而製勝
胸がすくようでござります
心裡就非常痛快
佐助
佐助
もう何も雲やんな
什麼都別說了
と盲人の師弟相擁して泣いた
失明的師徒二人相擁而泣